OPJこと乙幡潤と出会ったのは、たぶん’95年。サイクルショーでのBMXチーム『ディスチャージ』のパフォーマンスを見た時だと思う。コンパネ製の巨大ランプを並べてBMXで様々な技を繰り出す迫力の演技。失敗すればアスファルトに激突と言う場所での大技連続に大興奮だった。それから多分5年間ぼくは、バンザイペイントとしてOPJのヘルメットペイントをサポートした。
まあ、彼もとてもキケンな事をするので、骨折などでしょっちゅうギブスをして休んでいたけど、とにかく楽しませてもらったし、到底それをやる技術も度胸もない自分がヘルメットのお陰で関われる事が嬉しかった。彼のヘルメットペイントデザインは、スピードを競う物とは違って、回転を意識したりモチーフもラフな入れ方にしたりしてぼくなりに試行錯誤はしたけど、今思うとレーシングジャージとは違うTシャツやルーズな綿の短パンといった服装にはあまりマッチしてなかったかなぁ(笑)
時は過ぎて、何年かに一度電話する程度になってしまっていたけれど、facebookを通じて彼の『復活』を知り、彼の息子も成長して父と同じBMXに乗って活躍するようになったんだなぁ…なんて思ってたら。久々に電話があって、今回のフレームペイントを頼まれたのだった。
OPJの乗るバイクは昔から変わらずBMXの老舗mongoose。預かったモデルLEGION-L100はシルバーとマットブラックの渋いモデルだったが、木目にしちゃおうということになって、完全に塗り替えた。問題はスポンサーのロゴタイプをフンダンに入れたがるのでどう処理するか。普通にやるとロゴタイプステッカーだらけで芸が無いからね。こういうときは、ファブリカの片山さんに頼んで、文字を抜いた状態でカッティングシートをつくってもらい、これをマスキングにして文字を吹付けてから、汚したり周囲をこげた感じにぼかして、焼き印風にしてみた。ロゴとしては、ちょっと目立たないかも知れないが、引きが強いからみんな近寄ってじっくりみてくれるでしょ。
「またすぐにギタギタになっちゃうんだろw」といったら、「いやぁ,昔みたいに無茶はしないっすよw」というけど、信用はしてません(笑)きっちり丁寧に仕上げた作品が宙に舞うのが楽しみです。
夏休みも後半ですが、そういえばTシャツのデザインをやりました。現在幕張メッセで開催中の宇宙博用です。
宇宙博Tシャツなので、スペースシャトルのカスタムペイントプランのスケッチをそのままドンと入れたやつにしました。科学的な理屈は置いといて、スペースシャトルをペイントしたかったなぁと言うやつ。Tシャツのグラフィックなんだけど、実際にペイントする事を想定して考えたので、宇宙規模っつうわけで、『SPACE SCALE』とステンシルで入れました。スペースシャトルをよく見ると、表面には細部に渡って色んな文字が入っているんだけど、結構ステンシルで吹付けてたりするんだよね。その感じです。
で、もう一型は、文字だけのやつなんだけど『太陽系Tシャツ』です。こちらは地球=EARTHを10pt.とした時に、太陽系の星がどのくらいのサイズかを大きさの倍率かけてそのまま構成してみたらこうなったという無茶なデザイン。 太陽=SUN は、地球の109倍あるので、1090pt.で思いっきり切れちゃう。それに対して、あまりに小さいので数年前に準惑星に降格しちゃった冥王星=PLUTOは0.18倍なので1.8pt.というシルクスクリーンプリントの限界を遥かに超えた小ささになっちゃうんだけど、無理矢理お願いしたら、虫眼鏡で観たらなんとなく読めるくらいには刷れてます。でっかい展示物観た後で小ちゃい文字をご確認ください(笑)
クリアホルダーや缶バッジもあるみたい。残念ながら会場のみの販売ですが、宇宙博にお出かけの際はチェックプリーズ。
]]> HERMES社のBIRKINバッグは一個100万円以上する高級品。ペイントするにあたって、実際に触れながら細部を観察するとまさに、デザインと素材と技術が絶妙のバランスで支えあう完璧な商品なのがよくわかります。
普通バッグは裏返した状態でミシンをかけてまとめてからひっくり返すんだけど、エルメスは絶対裏返せない。と言う事は、一体全体職人さんはどうやってこれをまとめあげるのか全然分からないのです。一見普通に見えるハンドル(持ち手)の付け根だって、指1本入らないような隙間の奥まで太い糸で均一にしっかり縫い付けられていて、下手なアウトドアブランドのバッグよりよほど頑丈な作り。なのにとても柔らかい牛皮を使っていて、無造作にポンと置いてもシャンと立ってへたり込まない倒れない。ほんとにすごいバッグです。もちろん内側まで同じクオリティーで同じ色。そういう訳で、バッグの内側には手を出せないし、折角の凝った色なので、ここはHERMESに敬意を評してベース色を生かしたペイントを考えましょう…だけどこれが難儀なのよね。
先にやった黒ヒョウは強いて言えば青なんだけど、「セルリアンブルーの印象があるものの、ほんの少しの緑味と上品な濁りのある青」といった感じ。そして今回は、「ラピスラズリというか生の顔料のコバルトブルーの様な鮮やかさを保ったまま深い暗闇に潜む青」…とでも申しましょうか。まあ一言で言えば難しい色なんです。とくに今回の暗闇のコバルト色は、対向色が決め辛い。明度的にも彩度的にも悩むことになります。
そこで、考えたのは灰色オオカミの毛皮仕様。ただし、毛皮だけでオオカミと分からせるのは難しいので、少し遊びを入れてモチーフでもコントラストを付けて行こうと言う作戦です。最終的に男性用というのがデザイン決定のポイントでした。
…と言う訳で制作プロセス動画です。
エルメスの名作バッグ、バーキンを初めてペイントさせて頂いたのは7年前。とてもスペシャルな方のスペシャルなイベントの為に制作させて頂いた。今回でバーキンは…えーと、多分16個目。有り難いことでございます。
先日制作したのレーシングヘルメットとの違いは、もちろん素材の違いは大きいんだけど、デザインを大きく変化させるのは使用環境と使う人なのです。まずヘルメットの場合の条件は…
?環境は屋外。
?100m以上の距離で色を認識させる。
?30mで何が描かれているのかが分かる。
?10mから高速で目の前を通過する時のインパクト。
?近寄ってみた時にはがっかりさせないクオリティー。
従って、使用する色は、コントラストを高く、補色も多用してとにかく遠目に鮮やかに見えるように工夫する。一方バッグは、通常100m先から分かるほどのコントラストや鮮やかさは望まれないし、洋服を来て持つことを考えると、色調も押さえないとバランスが取れない。でも、近寄ったときのインパクトや精度、それから耐久性も重要なポイント。で、室内で(たぶん夜)見せることが圧倒的に多いでしょうね、と想定する。
いままで、ヒョウ柄を含めて獣毛は随分描いて来て毛並みの表現については、ある程度自身もあるので今回は黒ヒョウをモチーフに少しアレンジにトライしてみました。知らない人もいるけど、黒ヒョウはヒョウの変異種で全身真っ黒に見えて、よく見ると輪っかの柄はちゃんとあるのです。それを今回は偏光塗料(カメレオンカラー)で変化を付けつつ、手描き感を損なわないように、獣毛表現は口径0.18ミリのiwataCM−SBエアブラシにて究極の細部描写(笑)塗料は染めQとHouse of Kolorを使用しています。
制作過程を動画にまとめてみました。マスキングから完成までノーカットで約3分。音楽は次男が中1の時GarageBandで編集したものを本人の許可を得て使用してますがちょっと盛り上げ過ぎだったかなあはは。
よく『倉科さんは、一般の人のオーダーも受けるんですか?』という質問を受けます。もちろんお受けします。年中無休で面白い仕事大募集。ただし既存デザインのレプリカや永ちゃんとかミッキーさん描いてみたいなのはご勘弁をw
さて、久しぶりのヘルメットペイントです。
制作のために得た情報は、
?自動車レース用ヘルメット
?クルマの色はパールブルー。
?デザインは強そうで速そうな感じで、まかせます。
?あ、そうだネームは右アゴに入れてください。
…以上。いいお客さんです(笑)
ただし、自分の好き勝手に描いちゃっていい訳じゃない。彼がサーキットで風となり光となるストーリーのヒーローにふさわしい、力強いイメージを定着しなくちゃね、もちろんぼくらしい感じで。
今回の製作日数は約10日。ヘルメットの素材はFRP製ですから塗料はウレタン塗料を使います。ウレタン塗装は大雑把に以下の3行程を繰り返すことで完成します。
?足付け研き(表面を荒らして塗料の密着を良くする)
?色の吹き付け、アートワーク(必要に応じてマスキング)
?クリアコート(塗装色の保護)
写真では省略しましたが、マスキングを取る度に一度クリアコートして研いでいる訳です。その都度マスキングや塗装で生じる段差や塗装面の凹凸を落として次の行程に進みます。ラメを吹いたり、青くしたり、金箔をはったりする度にクリアコートしますから、このヘルメットでは完成までに?〜?の行程を都合4回繰り返していることになります。
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事故、改造等による交換で、不用になった自動車パーツは、需要があれば中古車市場に出回ったりリサイクルされたりするが、多くは産業廃棄物としてゴミになってしまう。でも、このゴミはかなり魅力的で、きっと子供なら、いやいい大人でも「何かにつかえそう…」と言って、持ち帰りたくなりそうなパーツも沢山あったりする。けど、今時そんなもん3LDKのマンションに持って帰ったらお母さんにしかられるに決まってる。仮に運良く部屋に持ち込めても、「絶対なんかに使えそう」なのだが、その「なんか」は永久に見つかる事はない。あるいは「よしこれを加工すればクールなテーブルになるぞ!」なんて思いついたところで、加工技術も工具も場所もなくて『いつか…』と思っていると、ある日IKEAに行ったりして、「なぁ〜んか。こっちの方がいいかも…」ってなオチになってしまうと敗北ですね。
でも、ぼくは違うのだ。貰って来たらカスタムペントでもって、必ず絶対意地でも生まれ変わらせて、廃棄の運命を変えてみせるさ。プロだもんあははは。
と言うわけで、ゴミの中からメルセデスのフロントグリルを3つゲット。車のライトがお目目なら、グリルは鼻か口といった感じのところですね。これを、壁面に飾れるように裏面を加工、綺麗に磨き上げてからから、グッと睨んで目に浮かんだものを描く。というかそれにしてしまえば多分正解です。
まずはウッドだ。一見木彫りにみえるでしょ。まあ木目からすると、パイン材か杉材ですがね。お部屋の白壁に掛ければなかなか美しく、木の温もりを感じさせます。お客様にあっては「おっこれベンツですか。木製のグリル?…え〜絵なのこれぇ!はぁすごいね。あはは」と空気が和む事請け合いです(笑)
そして葉っぱ。これはクヌギの葉ですね。ちょっと難しい事してますね。ベースのクロームメッキを生かして、キャンディー色(カラークリア)で仕上げてメンソールのような爽やかさ。お部屋に置けば、お子様のカブトムシも大喜びですね。
さらにメタリックと特殊偏光塗料を使って羽根で埋め尽くしたモデル。見る角度や光のあたり具合で色が変わって見えますねぇ不思議ですねぇ。実はこの塗料1ℓ弱で10万円もする塗料なんですよ。贅沢でしょ?びっくりするでしょ?あ、でも20ccぐらいしか使ってませんけどね。うまいんで、っていうかケチなんで(笑)
2013年12月現在この3点は原宿トーキョーカルチャートbyビームスで取り扱いいただいてます。興味ある方は是非お問い合わせください。ね。
石膏像と並んで個展で見せたいと考えたのは、自動車のパーツであります。
昔に作られた神様の彫刻と自動車パーツになんの繋がりがあんのさ?と問われるならば、石膏像は本来の大理石彫刻としての目的はもはやカンケー無く、ここ日本では美大受験のデッサン用モチーフとして量産されている道具で、受験が終われば見向きもされません。
では、カーパーツはどうかと言うと、これ実は産廃処理されるゴミなのです。言って見ればこれも石膏像と同じく本来の役目は終えてしまっている悲しい物な訳です。これを見つけたのは、友人の経営する自動車板金工場の裏に積み上げられた事故やら改造、交換などの事情で不用になったバンパー、フェンダー、ドアなどの山から引きずり出したようなもので、「これもらっていい?」って聞いたら「いいっすよ〜」みたいなノリ。まあ、これは以前から「こういうものが出たら置いといてね」ともう一歩踏み込んだわがままで貰っちゃったんですけどね。これをカスタムペイントパワーでもって生まれ変わらせてしまえば、物質的には寿命が伸びますよね。
『生まれ変わらせる』とか『寿命を伸ばす』とかまるで命あるもののようですが、ぼく個人としては生き物好きというか、恐れも含めて生命自然物全般に対する興味と敬愛みたいなものが原動力となって絵を描きカスタムしているので、自ずとそういう感じの作品になっちゃいますよね。一生懸命やると無機物が有機物に…変わりはしないけどそんな風に見えたりします。
最初に選んだのは車のフロントフェンダーです。でかいけどFRP樹脂製で案外軽いので、壁面に掛けられるなぁと思ってね。右フェンダーは、得体の知れないなんかすごそうな生き物です。白ベースのラメで偏光反射する外骨格の生物は、赤く透明な部分からその下にある筋肉的なものとかが見えるような構成です。カスタムペイント素材として代表的なゴールドリーフの柄入り箔も使って強そうで豪華に仕上げました。
左フロントフェンダーは、赤、黄の鮮やかなガーベラが舞い上がり、無数の大粒ラメがギラギラ反射するブルーキャンディー仕様。生殖器むき出しの様な花と反対色のギラギラが毒毒しくてうっとり出来ます(笑)
どちらもドア側の絵が切れていますが、そうする事で車全体をイメージさせる効果を狙っています。
自動車用2液ウレタン塗料使用。雨風もヘッチャラで色あせず室内なら100年単位の耐久性です。こうして物質的寿命は格段に伸ばせましたが、問題はずっとゴミにならない作品にできたのかってことですねあはは。
とはいえそんなに都合良く廃棄処分の石膏像が手に入ると思えず、ヴィーナス(半身像)は『モナリザもあっと驚くこの安さ』でおなじみ世界堂にて11万円で購入。前述通り『羽根で覆われたヴィーナス』が誕生したわけであります。
そしてもろもろ制作中のある日。美大受験で購入した『青年マルス像』(首像)を譲ってくださる人がいる、という願っても無いラッキーなお話が転がり込んできた。ヴィーナスが『愛と美の女神』なら、マルスは『闘いの神』ですから、意味合い的にも対を成す形になってかなり良い。しかも美形ぞろいの石膏像界にあってマルスさんは一二を争うイケメン像として女子の人気も高い。やりがいもありますね。
『青年マルス像』には若き闘神にふさわしくファイヤーをまとっていただきました。しかも猛々しく野獣の毛皮。堀の深いお顔やカールした髪など、今まで経験の無いほど激しい凹凸に苦戦したものの、毛1本ずつ描く獣毛描写も改心の出来であります。『ヒョウ柄の青年マルス首像』は、ぎりぎり搬入の当日朝に完成したのでした。
あっというまに今年も12月。本当に小学生のころとか一年が永遠のように感じたものだったのに、なんと非情に時は過ぎ行く事か。そして、久しぶりにブログを開いてみれば5月の個展告知以降全く更新してないではないの。これではいけませんね。
さて、久々なのでしばらくはブログを休んでいた間に制作したものとか思い出しつつ記録しておこうと思いますが…どうしても4月の個展DMの画像が目に入るので、『ミロのヴィーナス』から。
ミロのヴィーナスは、ルーヴル美術館にある『世界一有名な彫刻』ですね。ぼくも中学校の時、美術室前の吹き抜けにこれの全身像があったのをよく覚えています。中学の美術室の入り口にあったから、日本の美術教育の入り口と言うのは少し強引ですが、カスタムペイントの題材としても最高なのです。だって誰でも知ってる彫刻なら、誰が見てもどう変わったのかすぐに気付いてもらえるでしょ?
ヴィーナスはギリシャ神話に出て来る愛と美の女神様。これの全身を銀色の羽根で埋め尽くすプランです。シルバー(メタリック)には強い反射と陰影がつく特徴があるので、表面の凹凸をより強調して見せる効果があります。しかし、金属的で冷たい印象になるので、羽根の持つふわふわした柔らかいイメージで中和させようというわけですね。
そういえば石膏像のペイントは2003年に恵比寿のシルバージュエリーブランドPUERTA DEL SOL用に制作したベートーベン像以来。あれは、今でも店の前を通りかかるとウインドゥに飾られていますので、通りかかったら「おっ!これね」て感じで見てみてね。